参拝代行とは

参拝代行は、"代参"とも呼ばれ、

本人の代わりに寺社仏閣へ参拝することを指します。

特に遠方の名山霊場に代表者を派遣する参詣方法は、古くは江戸時代から行われており、

由緒正しい参拝方法の一つとして数えられています。

参拝代行の歴史

参拝を他者に代行してもらう"代参"は古くから行われてきた祈りの方法です。

"代参"という言葉の初出は1548年の[運歩色葉集]。

さらに、1808年、歌舞伎・彩入御伽草では、蛍ケ沼の場で

君を思へば 徒歩や裸足の 代参り

という口上が登場しており、この時代、すでに代参は庶民にも浸透していたことがうかがえます。

特に江戸時代、「講」と呼ばれる集団を組んで、旅費を積み立て、

伊瀬神宮や熊野神社等に代理で参拝する"伊勢講"や"熊野講"と呼ばれる代参講が全国各地で流行し、

他者の代理で参拝するという行為は一層身近なものとなっていきました。

伊勢講(いせこう)は、伊勢神宮の参拝を目的に集まった講。必要な費を積み立てて交代で参詣します。

伊勢講は全体の組織になる場合が多く、参加者は家長がほとんど。

主にくじ引きで、数人の代表者を選ぶ代参形式。多くは毎月、日を決めて講宿に参集し神事を行い、その後で直会(なおらい)の酒食を摂りました。

代参は、多く春先の農事始めの前か秋の収穫作業完了後の農産期に施行。代表者の出発に際しては、講中が伊勢講宿に集まってデタチの祝いをしました。一生に一度は必ず伊勢参りをしたいと念願する庶民は少なくなく、伊勢から帰省のときにも村中が村境まで出迎えました。

実例

埼玉県内の近世文書「伊勢講廻章」[文献3]による伊勢日待(ひまち:前夜から潔斎(けっさい)して寝ずに日の出を待って拝む)は以下のとおり。

日時は(旧二月)五日昼七ツ時(16時)、場所は講元兼世話人の(武蔵国旛羅郡)中奈良村・野中彦兵衛宅、参加費は二(約24,000円)、参加者は一一名(内 講元兼世話人二人)。

内容は、内宮佐源大国右近太夫様の御手代衆より御神物ならび御者(ぎょしゃ:を取り扱う人)の御披露あり、と記載されていました。

参考文献
  1. 中村吉治、圭室諦成「講」『日本歴史大辞典 第4巻』(河出書房新社、1985年)310-311頁
  2. 金本正之「伊勢講」『国史大辞典1』(吉川弘文館、1979年)580頁
  3. 埼玉県立文書館 野中家5249 「伊勢講廻章」:(江戸時代)巳正月廿一日、出所 彦兵衛・政右衛門、出所 禄蔵様、徳次郎様他七名